海外に比べと、日本人の独立精神はあまり強くなく、被雇用者に甘んじる傾向が強いとされています。

これは気質の問題だけでなく、国内の制度的側面も影響していると思われます。

しかしながら、事業を起こし国内にお金を回していくことは国力を維持するために大切なことであり、これに打って出ようという独立精神は尊ばれるべきものです。

これから起業、独立、開業を考えておられる方々に少しでもヒントとなるよう、本章では起業前に知っておきたいポイントについていくつかお伝えしていきたいと思います。

十分な余裕資金を確保すべし

■十分な余裕資金を確保すべし

独立起業を考えるにあたり、ぜひ意識してもらいたいのが自前の余裕資金の確保です。

始めればすぐにぼろ儲け!という甘い話はまずありません。

事業コンサルタントなどを活用して相当入念な準備をしているなど、すでに具体的な構想と算段がついている場合は別ですが、通常は成功するかどうか未知数の世界に向けて歩むわけですから、最低限の余裕資金は確保しておくのが常道です。

開業後すぐに、余裕のある暮らしができるレベルの売上金を安定して得ることは難しいことが多いので、この点は心に留めておくようにしましょう。

ここでいう余裕資金とは自らの生活資金のことですから、ビジネスに必要な資金の確保は別途考える必要があります

最低半年~1年程度はビジネスからの売り上げが無い、あるいは安定しないことを想定し、その間の生活資金を自前で確保しておくことが望まれます。

「一般的にそんなに長期間売り上げがないのか!?」と思ったかもしれませんが、これには次のポイントも関係します。

市場に認知されるには時間がかかる

■市場に認知されるには時間がかかる

安定した売り上げを確保するには市場で十分に認知される必要があり、業種にもよりますが一定の期間を要します

ネット経由の販売戦略が主流になる場合は、サイトを立ち上げてから検索エンジンに認識され、検索結果に反映されるまでに数週間を要します

検索上位に上がっててくるまでには数か月かかりますし、その前に市場の顧客に確実に自社HPを訪れてもらうにはネット以外の方法で伝えなければならず、この宣伝広告にも期間を要します。

何らかの店舗を構える場合はそれ自体が宣伝になりますが、新規のお店は様子見されますから、勇気を出して最初の客が入り、そのお客さんがネット等で口コミを上げ、市場の多くのお客さんが安心し、安定的に訪れるようになるにはやはり数か月は見ておく必要があります。

経営者が思う以上に、市場に認知されるまで、また信頼の構築を得るまでには時間がかかるということも知っておきましょう。

独立する動機と目的を明確にすべし

■独立する動機と目的を明確にすべし

簡単なようで意外と難しいのが、独立する動機や目的の明確化です。

これは人によって異なるでしょうし、早い段階では意識の中で明確にするのが難しいところもあります。

よくあるのが、「会社が嫌になったから独立したい」というものです。

これ自体をダメなこと、悪いことと言うつもりはありません。

最初はネガティブな理由で独立を考える人が多いのも事実です。

ただ単に今の勤め先が合わないのであれば他社に転職でもOKでしょう。

しかし「雇われる人生はもう嫌だ」と感じているなら脈ありです。

時間の拘束を受けて出社、退社まで管理される人生を嫌うならば、独立起業の意識を高く持ち、着々と準備を進めましょう。

ちなみに、独立の準備をしながら働いている間は、嫌いな勤め先のためではなく自分の準備のために給料を稼いでいるのだという意識が働くので、雇われ人意識が薄れ、不思議な充実感を感じる人もいるようです。

目的を達成するための道筋を描こう

■目的を達成するための道筋を描こう

独立する動機や目的がある程度はっきりしてきたら、その目的を達成するための道筋を描いてみましょう。

どんな分野の事業を考えているのか、もしまだそれが決まっていないのであれば、どういった分野が自分にあっているのか考えてみます。

何の分野で起業するのかを意識できれば、その分野での成功例の収集や事業展開の仕方なども具体的に調べることができます

例えば同じ飲食でも、ラーメンなのかイタリアンなのか、あるいは蕎麦屋なのかによって展開の仕方は変わってくるでしょう。

フランチャイズ展開を利用するなども方法も考えられるので、できるだけ具体的なイメージを描き、目的達成のために何が必要なのかを考えていく作業が必要です。

許認可が必要な業種がある

■許認可が必要な業種がある

独立起業を考える上では行政上の規制についても考える必要があります

起業するビジネスの種類について許認可が必要かどうかを調べ、その要件を満たせるか、現状満たせない場合はどうすれば満たせるかを探っていく工程も求められます

許認可申請の窓口も様々で、例えば飲食など衛生面の規制がある業種では保健所、警備業や探偵業など保安面の規制がある業種は警察、人材派遣業は労働局など、構想するビジネスによって異なります。

届け出のみで割と簡単に済ませられるものもあれば、資本金は〇万円以上、事業所の床面積は〇㎡以上などの要件を満たさないと始められないものもあります。

許認可の窓口となっている行政機関で説明を受けられたり、資料をもらえるはずですので、どんなビジネスで起業するのか具体的な構想が固まってきた段階で掛け合い、情報を集めておきましょう

事業計画を立てることで専門家に相談しやすくなる

■事業計画を立てることで専門家に相談しやすくなる

独立起業を支援する専門家もいるので、可能であれば利用した方が成功しやすくなります。

ただ、ビジネスモデルが漠然とした段階で相談しても、明瞭な答えは返ってきにくいでしょう。

そこで、ある程度の明確な事業計画を立てたうえで、これを基に助言を得るというスタンスが有効です。

「自分ではこう考えているのですが、専門家から見てどうでしょう?実現性はありますか?修正するとすればどこをどう見直せばよいですか?」

と具体的なアドバイスを求めることができるので、漠然と相談するより何倍も相談効率が上がります。

事業計画を立てることは、自分の中でビジネスモデルを明確にする役割もありますが、専門家に相談する際にも重要になるので、一度プランニングしてみることをお勧めします

会計知識の習得は売り上げが出てからでも遅くない

■会計知識の習得は売り上げが出てからでも遅くない

たまに聞かれることですが、会計知識が全くないので先に勉強した方がいいですか?という質問があります。

会計知識はもちろん無いよりあったほうが良いのですが、現状で会計知識がないからといって先に勉強するというのはお勧めしません

会計の勉強をする時間があるなら、ビジネス本体の事業計画を練ったり、その実効性を担保するための行動をとる方に時間と労力を割くべきです。

というのも、独立開業したからといって必ずしもすぐに売り上げが発生するわけではありませんし、もしかしたら途中で頓挫する可能性だってあるわけですから、そうなったら勉強に費やした時間は無駄になってしまいます

多くの起業家は、会計の知識がなくともビジネス本体に時間と労力、そして情熱を徹底的につぎ込み、売り上げが出てきた時点で会計の対処を考えます

スモールビジネスであれば自分自身で勉強して会計にトライしてもいいですし、難しければ会計の知識がある人を雇うこともできます。

最近は企業会計をアウトソーシングすることも普通で、税理士や行政書士なども会計記帳を請け負う事務所があります。

税金の申告や納税の代行は税理士の専業ですが、会計記帳については行政書士でも行えます。

申告納税は帳票に記入する数字が分かっていれば割と簡単にできるので、日々の記帳だけを安い事務所に頼んで費用を節約するのも一考です。

経営者は孤独に耐えるのも仕事

■経営者は孤独に耐えるのも仕事

「経営者は孤独だ」とよく言います。

一般的にこの意は、働くことについて従業員と経営者の意識の溝が深いことを意味するものです。

従業員を雇うのであれば、完全な仲間意識でいると足元をすくわれることになるので、仲間意識を捨てて管理する姿勢が必要です。

また同じ業界にいる人間もライバルですから仲間ではありません。

セミナーなどで知り合った際に下手に自社の事情を話して相談してしまうと、ライバルを潰そうと自社の窮状を業界にばらされてしまう危険もあります。

深く考えずに誰かに頼ろうとする姿勢は、経営者としては足元をすくわれる原因になるので要注意です。

独立前の会社とトラブルになることもある

■独立前の会社とトラブルになることもある

もし勤め先と同じ業種で独立を考えている場合は少し注意が必要です。

まず、就業規則や雇用契約上で競業避止義務が課せられている場合、退職後一定期間は同じ業種でビジネスを行えないことがあります

また競業避止義務がなくても、顧客の横取りなどで目を付けられると、事業が安定する前に嫌がらせをされて廃業に追い込まれるなどの危険もあります。

ただ一心に売り上げ増だけを念頭にして我武者羅に進むのではなく、競合問題なども睨みながら慎重にビジネス展開を進めていく姿勢も求められます

家族には反対されると思っておこう

■家族には反対されると思っておこう

最後になりますが、独立起業を考える人は、多くのケースで家族の反対にあいます

安全、安定志向が強い国民性ですから仕方がない面もありますが、「失敗したらどうするの?」「きっとうまくいかない」「安定したお給料をもらう方が安全」という感じで、あなたに起業を思いとどまらせるように助言してくるでしょう

悪気があってのことではないので責めるわけではありませんが、「家族ならば応援してくれて当たり前」と考えていると、そうではない現実に打ちのめされそうになります。

家族はそもそも反対するものだと考えて、それでも独立起業するのか、その必要があるのか、必要があるならそれは何故なのか、独立を思い立った時点に立ち返り自分を見つめなおしてみましょう

家族の応援を受けられるならば良し、もし家族を説得できなくても、あなたに強い意志がありビジネスを軌道に乗せられれば、家族の見る目も変わってくるはずです。

まとめ

■まとめ

本章では、独立起業を考える方に向けて、起業前に知っておきたいポイントを一緒に見てきました。

実務上のもの、精神的なものなどいくつか見てきましたが、独立することの最大の醍醐味は自由を手にすることができるということでしょう

毎日拘束されることに嫌気がさしたら、自分で自分の行動を決められる経営者の道を選ぶことは必然かもしれません。

まだ漠然としたイメージしか描けていない人も、一歩ずつ確実に歩みを進めてください

近い将来、経営者となった皆さんとお話しできることを心から楽しみにしております。