一つのビジネスが誕生し成長、拡大していく過程はもちろん個々のケースで異なるとしても、最初は個人で小さく始め、
軌道に乗ったら法人化するというのが一つのモデルになっていると言って良いでしょう。
近年は暗号資産への投資が活発で、個人で運用を行っている人もだいぶ増えてきたようです。
暗号資産への投資が軌道に乗り、十分なうま味を感じることができると、法人運営に切り替えを検討される方が多くなります。
法人運営はメリットも大きい反面、注意を要することもあるので、本章ではこのテーマについて取り上げてみたいと思います。
目次
暗号資産運用を法人で行うメリット
まずはメリット面から見ていきます。
①収益が増えると税金面でお得になる
大きなメリットの一つが法人化による税金面の負担軽減です。
個人運用の場合、暗号資産から得られる収入は所得税及び住民税の対象になります。
住民税は自治体によってルールが異なるのでここでは深く追及しませんが、両者とも所得額が大きくなるほど税率の数字が大きくなる仕組みになっています。
所得税と住民税を合わせて、課税所得に応じ概ね15%~55%の税率が設定されるため、所得額(儲け)が大きくなると税金の負担感が大きくなります。
法人の場合も同じように儲けに対しては法人税や住民税、事業税などが課税されます。
ただし法人の場合、資本金1億円以下の中小企業であれば税率幅は概ね25%~35%までに収まるため、ここに個人運営との違いが出てきます。
上限値を見ると法人の方が最高税率が低くなることから、暗号資産の運用が軌道に乗り儲けが大きくなると、法人化にメリットを感じることになります。
②経費算入により利益を減算できる
事業に関する経費であれば基本的にはすべて経費扱いとすることができるので、その分数字上の利益を圧縮し、儲けを少なく見積もることで課税対象を小さくし、税金の負担を減らすことができます。
例えば従業員に支払うお給料や、資産の減価償却費なども経費に計上できるので、直接の税負担を軽減できるメリットが大きくなります。
これは副次的に経費を気にせずに済むことにつながるので、個人運営と比べてダイナミックなビジネス運営が可能になります。
暗号資産運用以外にも幅広くビジネスを手掛けたい場合は特にメリットが大きくなるでしょう。
③繰越欠損金の利用や損益通算が可能
個人の方が会社勤めの他に副業として行う場合、暗号資産の運用で得た所得は雑所得となり、給与所得と損益通算ができないので、儲けに対してまるまる課税されてしまいます。
法人運用の場合は事業所得となるので、他の一定の所得と損益通算が可能なため、他の所得で赤字があれば暗号資産から生じた儲けを相殺して課税対象を小さくすることができます。
また法人は赤字が出た場合、繰越欠損金として最大10年繰り越すことができ、将来黒字が出た時に相殺して数字上の儲けを減らし、税負担を下げることもできます。
暗号資産運用を法人で行う方法
法人運営に切り替える場合、まずは株式会社などの形で運営母体となる法人を設立することになります。
これ自体はそれほど難しくありませんが、よりスムーズに進めたいならば会社設立をサポートする行政書士などに頼めば手間がありません。
次に実際の運用についてですが、個人で運用していた暗号資産を法人に移転して運用を続けるパターンと、個人運用の暗号資産はそのままにして、法人は法人として一から投資を始めるパターンに大きく分かれると思います。
後者の場合、一からの投資となりますが、個人運用で培ったノウハウがあれば時間はかかっても軌道に乗せることは難しくないでしょう。
こちらのパターンであれば、以下で説明する大きな問題点のうち一つはクリアされます。
問題が大きくなるのは個人で運用していた暗号資産を法人に移転するパターンです。
移転と聞くと簡単に聞こえるかもしれませんが、実はここに大きな問題が隠れています。
次の項では暗号資産を法人で運用する場合に考えられる注意点について見ていきます。
暗号資産を法人で運用する場合の注意点
ここでは注意点を大きく二つにわけて見ていきます。
①法人に対して暗号資産を売却することによる税負担
個人で運用していた暗号資産を法人に移転する場合、その作業は名義変更のように簡単にはいきません。
通常は法人に対して暗号資産を売却するという形になるので、資産を売った側(個人)に対して儲けが生じることになります。
売却益は雑所得の扱いになり、こちらで税負担が生じることになります。
法人の運営者が変わらないとしても、法人は別人格として扱われるため、不動産の名義を変更するように簡単にはいかないのです。
では税負担を下げるために、暗号資産をタダもしくは安く売って儲けが小さくなるようにすればいいのでは?と思うかもしれませんが、そうはいきません。
不当な課税回避行為に対しては税法の中でしっかりとルールが作られているので、思うような課税回避はできないようになっています。
資産の売却は時価とされ、時価よりも著しく低い価格で売却した場合でも時価で取引をしたとみなされ、税務署による「みなし課税」が行われます。
すなわち時価で売却したと仮定して、そこから生じた譲渡益を課税対象とするため、通常の取引をした場合と変わらない税負担が生じるというわけです。
タダで法人に贈与した場合も同様で、時価で売却したものとして扱われるので、やはり税負担を回避することはできません。
ちなみに「著しく低い価格」は概ね時価の二分の一程度の額とされますが、実際には厳密ではなく、二分の一以上の価格で売買取引をした場合でも上記のみなし課税をされる可能性はあります。
外観上も適正な取り引きとみられるくらいの値段で売却しなければ、みなし課税を実施される可能性があるということで、この点について注意が必要です。
②帳簿作成の問題
もう一つの注意点が帳簿の作成に関してです。
これは個人運用の暗号資産を法人に移転せず、法人が一から取引を始めるパターンでも当てはまります。
法人は青色申告を利用するのが普通ですから、帳簿の作成と保管を義務付けられます。
暗号資産の取引に関しても、全て正確な記録を残しておかなければいけません。
法人化を考えるほどですから、暗号資産の取引は毎日、毎週レベルの頻度で行われるはずです。
これら全ての取引について、記録を取って詳細な証明資料を作成しなければいけません。
また厄介なのが原価計算についてです。
法人の利益を計算するためには売り上げから原価を差し引いて計算する必要があり、暗号資産の原価計算をどうするかが問題となります。
原則として「平均移動法」という手法で計算することになりますが、かなり複雑なものですので、経理に詳しい人でないとかなり苦しいことになるでしょう。
まとめ
本章では暗号資産の運用を個人から法人に変える方法やメリット、注意点について見てきました。
法人で運用を考える場合には主に節税のメリットが大きくなり、儲けが大きくなればそのうま味を感じることができるでしょう。
ただし法人で運用する場合、暗号資産を法人に移転する際に売却益が課税対象となるので、個人の側に税負担が生じるので注意が必要です。
法人運用を始めた後も、経理や帳簿整備の面で手間が生じることが予想されるので、この点についても十分な留意が求められます。
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